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広島簡易裁判所 昭和37年(ろ)444号 判決

被告人 三宅良州

大一一・三・二五生 医師

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は

被告人は法定の除外事由がないのに、昭和三六年八月三一日午後八時二〇分頃広島市上流川町三宅眼科宅先道路において八広ま〇五〇〇号軽(四輪)自動車を駐車するに際し、その車道の左側端にそわず、他の交通の妨害となるように歩道上に駐車したものである。

と云うにあるが、被告人の当公廷における供述と司法巡査作成の現認報告書の記載とを綜合すれば、被告人は自宅玄関横の幅員六・一〇メートルの歩道上に進行方向に向つて左側端に沿つて幅一・一八メートルの自家用小型四輪自動車(クーペ)を駐車したものであることを認めることができる。

そこで、歩道上の駐車が道路交通法違反となるか否かについて判断するに、

一、旧法(道路交通取締法施行令第三三条)では、歩道上の駐車を禁止する趣旨の規定があつたが、現行道路交通法にあつては駐車を禁止する場所として第四四条第四五条の規定はあるが、歩道は右法定の駐車禁止場所にはなつてはいない。

駐車の方法について定めた第四八条第一項には、歩道と車道の区別のある場合は車道(第一七条第三項参照)の左側端に沿つて駐車しなければならない(歩道と車道の区別のない道路で公安委員会が指定した場所においては道路の左側端から道路の中央に〇・五メートル寄つた線)旨規定しているが、本条は括弧内の文言との関係からいつても、車両が車道に駐車する場合に沿うべき線を示す趣旨と解すべきで、この規定が駐車する場所は車道に限るということまで規定しているものとは解し難い。

そうすると、前示旧法の如き規定のない現行法上では、原則として、車両は、公安委員会が駐車禁止場所として指定しない限り歩道上に駐車できるものと解せざるを得ない。

二、しかし、歩道に駐車することが他の交通の妨害となるような場合は右第四八条後段により駐車違反となること勿論である。ただ此の場合同条は「車道の左側端に、かつ、他の交通の妨害とならないように駐車しなければならない」旨規定し、交通妨害を独立の要件として居るのであるから、歩道上の駐車は、即ち当然に、他の交通妨害となるものと解すべきではなく、他の交通妨害となるか否かは具体的事実について判断すべきものである。

しかして本件についてこれを観るに、前示の如く右車両の駐車の方向、同車の右側の道路上の余地が四・九メートル位も存していたこと(第四五条第二項比較参照)並びに夜間交通量も少ない時であつたこと等を綜合すれば、他の交通の妨害となるような駐車をした場合には該当しないものと解する。

以上の認定によれば、本件歩道上の駐車が第四八条第一項に違反してなされたものとする犯罪の証明がないことに帰着する。

よつて、刑事訴訟法第三三六条後段に則り、無罪の言渡をする。

(裁判官 谷口秀雄)

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